自伐型林業への道
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自伐型林業のための道具考---道具で変わる世界

 自分たちのレベルに合わせて、コストを掛けないで搬出するための道具を中心に段階を踏んでアプローチする方法を考えてみましょう。取り敢えず暫定ですが、本Webサイトのリニューアルに際して、手元にあるものから紹介してみます。今後、少しずつ更新して行きます。
 また、いまはWeb上で多くの方々が関連のノウハウをアップロードされていますから、検索してみてそれぞれご自身の状況にあった方法に自己責任でチャレンジされてください。わたしもネットの情報を参考にさせて頂き自分なりに工夫して活用させて頂いています。ご自身の知恵と経験(そして痛い目に遭った体験談など...)を惜しみなくシェアして下さっている方々に感謝御礼申し上げます。

追記:3/22 本ページは2015年5月29日に全国林業改良普及協会さんから発刊予定の「New 自伐型林業のすすめ」収入を得ながら行なう健全な森づくり(仮)中嶋健造氏編著に“技術編”として内容が整理されて掲載されます。
  また、H23年度から行なわれている津和野町に於ける自伐型林業育成事業の詳しい取組みについても、昨年の夏に執筆したものが掲載されます(その両方の記事のダイジェストが、「現代林業」誌の4月号に掲載)。
 此の「New 自伐型林業のすすめ」は、当初は昨秋に出版予定の様でしたが、やっと出来上がりとなります。此の本には、自伐型林業に取り組む各地での事例が豊富に掲載されておりますの で、此れから取組みを始める地域には良い参考書となるのではないでしょうか?

 さて、サイト管理者はと申しますと、26年度は津和野町の委託事業でコーディネータを務めさせて頂きましたが、3月末からは島根県全体で自伐型の林業を推し進めるべく体制転換を行なって居ります。---> 続き

『自伐林業的搬出方法アラカルト』
 道具があれば出来なかったことも出来る様になります。が、資金の問題もありますから、その道具が自分のやりたいことに合っているかどうか、自分の現場に合っているかどうかを判断することが大事でしょう。そして、自分自身で工夫することが大事だと思います。
 その為にはスッテップを追って確認しておくことも大事ではないでしょうか。

 まずは人力で行なうとどうなるかやってみましょう。これは数年前に愛知の森造り工房 kikkoring稲垣氏(足助きこり塾・代表、矢作川水系森林ボランティア協議会・副代表)に下げ荷の方法について電話で話しを伺っていたときに、「緩斜面だったらウィンチとか使うよりも、スキッダーコーンを付けて人力で引きずり降ろした方が早いよ。」と教えてもらって試したものです。

4m材にスリングベルトを掛けて曳いてみる。 障害物避けにスキッドコーンを先端に付けて曳く。


 下がトチカン。マイ道具コレクションから...(^^;;

 昔はトチカンといってリングがついたクサビ状のものを材の頭に打ち込んでロープで曳いたのですが、いまは色々良いものがあるので、それを使ってみましょう。
 確かに緩斜面ならば上の画像の様に直径20cm台の4m材くらいは人力でも搬出できます。また、材の先にスキッドコーンを付ければ障害物に引っかからずに引っ張れます。このスキッドコーンを使うと、化繊系のロープやベルトなどが地面に接触しないので傷まないこともメリットでしょう。でも、曳くのに12mm程度のロープでは手が痛くなりますから、幅広のスリングベルトだと4m材も楽に出せる様になります。
 木の駅などで出す、林地残材の2mものも、手で運んだり担いで何往復もするよりも、長い材を数本まとめて滑らせて出してから土場で玉切りした方が楽な場合もありますので、状況によっては人力で引き摺り下ろすというは充分ありえる手法です。

 次は動力を使ったものです。自伐林家的には、ウィンチ付きの林内作業車かPCウィンチといわれるポータブルなエンジンロープウィンチが使いやすいでしょう。(※1)

 さて、下の画像は元口が40cm程度の8m杉材です。さすがに緩斜面でも人力では曳けなかったので、動力を使いました。下りですからなんのこともなく出てきます。もちろん、同機種は直引きで最大牽引力1.1t(吊り下げ300kg)、動滑車を使えば2.2tまで曳けますから、長尺材の斜面下からの揚げ荷を楽々搬出出来ます。

 ロープは100m弱。必要であれば200mのものもある。  何れにしても先端にスキッドコーンを付けておくと楽に出る。


 そして、PCウィンチを使えば重たい材を崖から引揚げることも、曳き下ろすことも(ロープで架線を張って制動しながらおろす方法も)、更にはトラックに積み込むことまで可能になります。エンジン自体は15kg程度ですから、スリングベルトを使い肩に掛けて運んだり、背負子で担いで山の中に持って行って道の無いところからでも材を曳き出すことを可能にします。

 何れにしても、このPCウィンチとセットの黄色い頑丈なスキッドコーンがあれば山から材を引きずり出す時も、積み込む時にも重宝します。自分の場合、独り作業が多いので、荷掛けに斜面を降りたり登ったりを繰り返すので大変ですけれど、それでも重たい材を伐って作業路まで搬出し、そして一人で積み込むことまでが出来る道具というのは大変ありがたいものです(基本的には複数人作業をお薦めします)。

 軽トラの鳥居を使い、材の頭に動滑車をつけて2倍力にして人力で積み込む方法。スキッドコーンがあれば、ブリッジに引っかかることが無い。  重たい材は、PCウィンチを使って引きずり上げる。上の画像ではアオリを開けていないが、最初は開けた方が良い。


 こちらは動滑車とタマコを使って引き上げる手法。滑車は、一方向にしか流れないストッパ付きなので、途中で手を離しても大丈夫。  最後はタマコ(荷掛けワイヤー)の位置を変えて荷台の前方に引き込む。ナラ木は針葉樹の倍の重さはある。太いのは元口30cm強。自宅の40cm+長の薪用なので160〜170cm長の材。


  杉は軽いですから、2m材なら太めのものでも抱えたりして道具無しの人力で積み込めますが、広葉樹はいずれも重たいので、元口直径が35cmくらいの2m材になると、地面 に寝ている材を起すことさえも困難になります。勿論のこと薪利用であれば玉切って短くすれば扱いはよいのですが、家具などの用材には長くないとなりませんし、山から引きずり出すのにも長いままの方が手間が省けます。
 此のときに山から軽トラで引っ張って引き摺り下ろしたコナラが、元口30cm強、末口20cm、長さが4.5mでしたが、後でネットのサイトで計算をしてみると285kg〜300kg超の数字が出ます(Oakにも種類があるので)。半年くらい山に放置してありましたが、ナラ木はあまり乾燥がすすまないので、やはり250kg以上はあるでしょう。もう一つは、上の画像で積み込んでいる途中の材ですが、計算してみると150kg〜120kg位になります。 因に、前出の8m杉材を計算してみますと、250kg〜300kg超になります。(2014年9月21日:数字訂正しました。ちょっとホラを吹いてしまいましたので...)
※アメリカのWebsiteには、原木の重さを計算してくれるものが幾つもあります。これは、その内の一つですが、末口と元口の太さをそれぞれ半角小文字で数字とcmを、そして長さも、2m材なら200cmと数字を入れれば良いようです。そして樹種を選び、

 3倍力:最初に材に支点をとり、鳥居左の滑車を回ってから、材の滑車に戻り、そして鳥居右の滑車を回ってロープを引く。直径30cm2mの杉材なら片手で引いても動くくらい。

下のカリキュレートボタンを押せば重量が出ます。檜はCypress、杉はCedar、ナラはOak ですね。他の樹種はネットで検索して調べましょう。日本の木にどれだけ適合するかどうかは定かではありませんが大凡のの重さが分かるでしょう。


 此の様に、ウィンチがなくとも滑車とアルミブリッジを活用すれば人力で積み込むことが可能です。広葉樹は、家具などのマテリアル利用には2m長であれば良く、その長さなら軽トラでも積めます。当然、針葉樹よりも高額で取引されます。ですが、軽トラではすぐに積載オーバーになるので気をつけましょう。

 それでも、この手法を使えば、重機やウィンチを持っていない個人でも積み込みが出来るようになるため、自伐林業へアプローチする人たちに取っては朗報だと思います。
 もちろん、同様の手法をとれば軽トラだけではなく、2tトラックにも積み込みが可能です。2tトラックなら3m材が積めますから針葉樹のA材B材の市場への出荷が可能になります。そうすれば、林地残材や間伐材だけでなく、用材利用の高級材も出荷を自分自身でできますから、充分に利益を上げることが出来ます。
 さらに、 重たい材ならば、滑車の数を増やして3倍力にすれば良いですし、アルミブリッジも長いものを使えば良いでしょう。

 どのくらい楽に引っ張れるかというご参考に、先日中学生のプチ自伐林業体験を行ないましたので、その時の画像を載せてみます。この日は雨になってしまったので、屋根のあるところで滑車を使った軽トラへの材の積み込みと、トップハンドルチェンソーによる玉切り、それから杉丸太の皮むきをして角を削り丸太椅子づくりを2時間の時間内で行なったのです。林業体験を選んだとっても偉い中学一年生の男子と女子一名で行ないました。

 直引き:男の子動かず  二倍力:女の子動かず  二倍力:二人で積込み
 三倍力:女の子『ウッソー!』 動いた。  私:「手伝ってもらう?」女の子:『・・・』  女の子:『やった〜!』独りで頑張りました

 結果、軽トラの鳥居に滑車を一つ付けて方向転換しただけの直引きは、当然、二人とも材を動かすことは出来ません。次に材に滑車を付けて倍力にしたところ、男の子は動かせましたが、女の子は動かせませんでした。なので、男の子に手伝ってもらって二人で材を積込みます。

 そして三倍力のシステムにして、今まで一人で材が動かせなかった女の子にロープを引いてもらうと、『ウッソー!』という女の子の声と共に材が動き始めました。でも、大変そうなので手伝ってもらうかと訪ねたけれども返事無し。結局、頑張って独りで材を積込んでしまいました。

 どうですか?  皆さん中学や高校で滑車を使った力学の原理を習っているはずなのですが、最初からあきらめて試す事もしていないのではないでしょうか? 因にこの時の材は、チェンソーワーク用に用意してあった1.6m、30cm直径の杉材で重さは精々80kg強程度だと思います。
  勿論、身体の小さい子供たちには持ち上げて起すことも出来ませんでした。それが、ちょっとした道具を使うことで此の様に軽トラの荷台に積込むことが出来たのです。

 此れよりも更に長くて重たい材を、一人で動力を使い楽にトラックに載せるためには、このアルミブリッジとスキッドコーンを併用すれば、エンジンの力を使ってPCウィンチで引きずり揚げる方法(支点をトラックの鳥居か道脇の立木にとる)がありますし、もう一つは、下の写真の様に支点を道脇両側の樹上の二箇所にとって、一方を定滑車を設置して吊るし、材の頭を上げながら荷台に載せる方法が採れます。

 此の様に自伐林業を始めようという方にとって参入当初はコストを掛けないで知恵を使って楽に作業をこなせるように、また安全におこなえるように、此れ等のことに配慮しながらプローチするのが得策だと思います。無理して頑張って腰を痛くして休まなければならなくなってしまっては本末転倒ですものね。
 道具を工夫すれば、わたくしの様な体力のないひ弱い者でもそれなりに作業が出来る様になります。(^-^;; 自伐型で山の仕事に携わる人はマッチョでなくともOK? それよりも先を読む力とかイメイジ力とか、はたまた仲間が何をやろうとしているのかを感じる感性とか、木の心を感じるとか、木の癖を見抜くとか、また、道具を大事にしたり整理整頓ができ、そして作業は論理的に行なえる様な人の方が、安心して一緒に作業が出来る様に思えます。これら、全部安全管理に繋がる要素だと思うのですが如何でしょう。
  自伐型としては、怪我をして休むこと無く、コンスタントに愉しく取り組み続けられる体制作りということが肝心だと思います。プロの人でも、仕事ができる人で、かつ怪我や事故が無い人は、マッチョな人というわけではなく、やはり繊細な心遣いと前向きな楽しい心を持っている人の様に見えますから。

 樹上に二つ支点(一つ滑車)をとりPCウィンチで引く。下に車を入れておけば積み込みが出来る。但し、全幹を浮かすと資格が居るので片側を地面に着けておく注意が必要。吊るしも3倍力にすれば人力でも可?  伐採してPCウィンチで奥から材を曳き出してグラップル付きの8t車に4mのAB材を満載。此の時は、5人で4時間程度、掛かり木多発、効率悪く動き、材も良くなかったので8万円程度の売り上げにしかならなかった。

 

 

 ロープで索張りをして曳き出す方法もある。オープンサイドブロックを使えば横採りも可。繊維ロープは軽いので設置が楽だし、万が一切れてもワイヤーで直撃されたとき様な致命的な事故には繋がりにくいであろう。
 但し、化繊なので化学薬品や鋭利なものには弱い。また、時々、洗うなどのメンテナンスも必要なので、雇われでノルマ作業をする人たちではなく、自分の道具を大事に使う自伐林家さん向けにはちょうど良い道具と考える。
 道具をメンテして大事に扱わないと事故やトラブルにつながるので、自伐林家さんこそ日頃のメンテナンスを大事に。

 下げ荷を行なう場合には、制動器(ポータラップ)とスナッチブロック(滑車)を併用する。但し、スナッチブロックはロープ専用のものでないと、摩擦でロープが傷むので注意。また、欧米製のステンレススナッチブロックは扱いやすく設置しやすい。


 PCウィンチを使い、工夫をすればロ-プで架線を張って揚げ荷で搬出もできますし、ポータラップという制動器を使いながら制動を掛けて、PCウィンチで材の頭を曳きながら荷を下げる方法もあります。 ポータラップは様々な局面で役に立ちますから専用のスリングとリギングロープも用意しておくと楽に安全に処理出来ます。

 我々の様な新規参入する副業型自伐型林業のアプローチを行う者や、山村での農的暮らしのための山仕事を現代的に洗練されたスタイルで安全に行なおうとする者は、アーボリカルチャーというわれる森林管理のスペシャリストが使う手法、道具類の中に役に立つものが沢山あると思われます。PCウィンチも彼らが使う道具の一つです。前出の稲垣氏から譲り受けたアムスティールブルーという名前の化繊ロープの破断強度は、9mmロープで新品時には8.9tもあります。

  彼らは、電線や建物などが込み合った地域に於いて、難しい広葉樹を始めとした高木を樹に登って、枝や太い幹を落とさずに、ロープと制動器類を使いながらコントロールして、安全な目的の場所にゆっくりと降ろします。
 此の様に、伐採と搬出に関しても、わたしたち自らの視点と自身の立ち位置を変えるだけで、選択範囲と取り組みの次元がシフトします。既に世界は変わっているのです。

  いわゆる特殊伐採(日本では空師と言われてきた仕事)と言われる仕事もその一つですが、 欧米で構築された安全を第一としながらも高所伐採を可能にする先鋭的な手法をもっているアーボリカルチャーでは、安全管理と完璧なコントロールのために様々に工夫された道具を駆使します。此れ等の中に自伐的、また山仕事の様な小規模な林業で使える道具や手法、ノウハウが沢山詰まっています。
 此れ等の情報に関しては、全国林業改良普及協会からも関連の記事が掲載されている本が出ていますので、是非参考にされると良いでしょう。※林 業現場人 道具と技 Vol.10 特集 大公開 これが特殊伐採の技術だ   林 業現場人 道具と技 Vol.5 特殊伐採という仕事

 この全林協さん発刊の林業現場人 道具と技シリーズは、殆どの号が自伐型林業や山仕事に携わる人たちに読んで欲しい本です。先輩たちの経験や知恵、安全管理などについて網羅されていますから、知っているだけでもスタートの地点が違ってくると思います。
 
 自分の場合、若者が門戸を叩いて来る様なそれなりに地域では有名な林業事業体に居たことがありますけれど、このシリーズに出て来る基礎的なことさえも実現できていなかった様に思えます。良い指導者を見つけるためにも、これらのシリーズと他にも優れた書籍が全林協さんから出ていますから、是非手にすると良いでしょう。ネットだけで は分からないことが理解出来る様になると思います。

 こちらは奥出雲での搬出研修に呼ばれた時のもの。此の様に昔のお姉様でも楽々搬出できる。失礼!農 林水産大臣賞に輝く仁多林研の響氏のご親戚の方だからか?  こちらは道路脇の竹林ですが、ガードレールのパイプを支点にエンジンを設置。前方の木の上にスナッチブロックを着けて、谷下の孟宗竹の搬出が楽々可能に。

 

 PCウィンチがあるだけで、路から100m弱の範囲ならば斜面下からも、斜度が緩ければ路の上の斜面からも直引きで搬出が可能になります(斜度がきつい路の上からはロープ制動器を併用)。その場合、道脇の樹上に設置した滑車(スナッチブロック)が支点となるので、支点を換えて補いながら搬出する範囲を扇形、または180度反対方向の材を搬出可能に。そのカバー範囲を見据えた伐倒を行っておけば効率がよい搬出が出来ますので、 エンジンと支点を設置する樹をうまく選べば、いちいちエンジンを移動せずに効率よく多くの木が搬出可能です。

 また、PCウィンチは、軽いロープと使いやすい軽めのスナッチブロックを使用するので、必要な材だけを抜き取る択伐や利用間伐にも威力を発揮します。そして、スナッチブロックに片持ち(オープンサイドブロック)のロープの掛け外しが簡単にできるタイプがあるので、それを使えば支点を架け替え移動させながら、材の進行方向を変えることで連続的に障害物を避ける搬出方法を楽に行うことが出来ます。
 キャプスタンドラムもオプションで大径のものもあり、そちらを使うと最速18m/分で牽引できます(牽引力635kgMAX)。 独りでも搬出が出来て、自分の持ち山の資源を最大限利用する自伐型林業には1台欲しい設備ですね。

 この様に、ご年配の女性でも安全に搬出操作ができますし、自分一人しか居ない場合でも、習熟すれば伐採して曳き出し、トラックに積み込むところまでできるという、まさに自伐型林業むけの機材かと考えられます。
 

PCウィンチとロープ架線(主索)の組み合わせで搬出。

 

『工夫について』  
 工夫をするという姿勢を当サイト的には重要視しておりまして、なぜならば動力を使った作業を行っている際に、力任せだけで行っていると機械に必要以上の負荷をかけて破損させたり、資機材に応力が掛かり過ぎて破断させ、自分自身にその結果が跳ね返って来て事故に結びつくことがままあるからです。

 そうなる前に、エンジン音がおかしいとか、動きがおかしいなどと気づくことが必要です。おかしいと思ったら作業を一旦止めて確認すること、そして無理がある場合には、違った方法が採れるかどうか考えてみる癖をつけた方が、結果的には成果が上がることがよくあります。

 自伐型林業は、雇われて言われるがままに作業を行えば良い仕事とは異なり、如何に自分が工夫して安全に楽に、そして自分自身が愉しみながら行なうということに意味があるのだと考えます。自伐林業というスタイルに惹かれる皆さんは、いまの膠着した林業や森林の状況に対して、何か自分だったら出来そうだという光を見て取り組もうとしている訳ですから、自分自身で工夫を行い、そして先人の知恵を学んで、自分のやり方を創り出して行く位の方がもっと楽しく作業が 出来るのではないでしょうか。

 自分のやり方に合った道具がなければ、改造するか、または新たに作れば良いだけです。 どんな世界でも良い仕事をする人は、自分の道具を大事にするとともに、道具に工夫があります。時には道具を作るための治具まで自作します。他人の作ったもので満足するのではない、お金を使って解決するのではない、上手くいっても行かなくともOK。でも、自分で工夫して道が拓けたら、自分の立ち位置のステージが上がったということ。その積み重ねで自分自身の自由度の巾が広がるということかと。選択の自由度がひろがることが余裕になり、そしてそれは安全の確保へと繋がっていくのでしょう。

 自伐型林業、副業型林業、農山村生活に於ける山仕事は、雇われのノルマ仕事ではないので、自分自身が作業自体を愉しむこと、そして全方位感覚で気づく自分自身のセンサーを磨くこと、道具をメンテナンスし、さらに工夫すること、そして大地や森に感謝することなどが、我々の安 全管理の基本的スタンスの様に思えますが如何でしょう。

 

『ステップアップ自伐型林業』

 さて、そこで自分で山の木を伐って、自分自身で重たい材を搬出できてトラックに積み込むことまで出来たるとしたならば如何でしょうか? 山を持っている人はもちろんですが、農山村で暮らしたい都市部の予備軍の人たちも非常に興味があると思います。
 その上、チェンソー製材機なるもので、山の現場でも又は自分の家の庭先で製材して、山で借りた古い家を直すための板材や角材が自らの手で自給できたとしたらいかがですか。

 農的な自給率の高い生活は多くの人たちが実現しています。エネルギー自給も生活スタイルによっては充分可能です。その中で、ハードルが高いのは、山で安全に木を伐り、そして搬出してくることです。そもそも殆どの人がそんなことを考えたりしないでしょう。

 自伐林家・副業型林家はこれが可能です。家を直したり小屋を建てたりする用材の自給が出来、薪という木質バイオマス燃料の自給ができ、その上山の資源を商品として市場に売ることができる。それも最初は、中古の軽自動車程度の金額の投資で、それが可能になるとするならばどうでしょう。
 こういった森林資源の活用する取り組みが自分にもできるとわかったなら、今まで躊躇していた都市生活者たちも決心して農山村暮らしに参入するかもしれません。

 簡単に、コストが掛からない順番にステップを書いてみましょう。

1)中古の4WD軽トラとチェンソー:(中古4WD軽トラは都市部の方が安いです。20万円も出せばそこそこのものが見つかります。チェンソーはプロ用の中間排気量のもので10万円前後でしょうか)
  2m以下のC材と言われる林地残材や間伐材を人力と簡単な道具類で搬出。土佐の森方式や木の駅プロジェクトなど林地残材活用や森林資源活用を取り組んでいる地域であれば、トン当たり6千円程度で引き取ってもらうことが可能になります。
  中古の4輪駆動の軽トラックとチェンソーだけで取り組めます。チェンソーは専門店で購入した方がよいようです。ホームセンターで販売しているものは、薪割りとか庭木の処理くらいに耐える程度造りなので、足場の悪い山の中で太い木を相手に使っ て行くには向いていません。また、専門店では故障の際に対応して貰えますから安心です。

2)PCウィンチとチェンソー:(PCウィンチの林業用セットは保証、講習付きで688,000円:2015年9月14日時点。島根県では知っているだけで6台は出ていると思います)
  ロープが100m、もしくは200mなので、その範囲のものは路まで引き出せる。または途中に土場作ることができるなら、中継点を作り路まで搬出。手間は多少掛かりますがPCウィンチで2t車などにも積み込みができるので、貯めておいたAB材の3mまたは4m材をリースしたトラックで市場に持ち込むということが可能になります。
 其の様にして材を見る目つけ、造材の方法や市況の判断の良し悪しでより高く買い取ってもらえることができま す。また、PCウィンチでは用材になる様な太い6m直材でも搬出ができますから、山に良い木があれば、まとめて道脇に出しておいてからグラップル付きの大 型車に取りに来て貰えば、運賃に見合うだけの売り上げになる可能性が高いです。

3)土佐の森方式軽架線と林内作業車:(土佐の森軽架線キットはキャレッジとオタフク滑車各種、Uシャックル、1.5tチル ホール、キトークリップなどと100mの9mmワイヤー主索が入って21万円。林内作業車は、150万円から200万円超)。安く揃えて軽の最上位グレードの乗用車程度。リモコン付きの林内作業車で一人でも操作しようとするならば、普通車程度を購入する投資で仕事が可能です。この組み合わせまで揃えられるようになれば家族や仲間で効率よく搬出ができるようになります。

 道下の材を軽トラで曳いて揚げる場合、道脇の樹の上方にスリングで滑車を設置して支点とし、材の頭を上げながら引き出す。
 但し、その場合にスナッチブロックをセットした支点が上方だけだと四駆の軽トラでも浮き上がりがちになってタイヤのトラクションを得にくくなるので、下方にも同様の支点を採ることで最大限のグリップを活かせる様にする。これは、道の上から重たい材を曳き降ろす時も同じ。
 索張りをしないで、牽引搬出を行なう場合の肝は、先ずは支点を高く採ること。そして動力源からは、地球に平行な状態で曳ける様に支点を増やす。これはPCウィンチでも同様。また、支点を採るために樹に掛けたラダー梯子を登る時には、必 ず安全帯を使用することも大事ですね。

 そうなれば、別ページに紹介した林野庁の森 林山村多面的機能発揮交付金は、3人以上でグループを作って、事業計画および決算を確実に出来れば、1グループ当たり上限は500万円まで出ますのでエントリーすると良いかも知れません。その中で、資機材は1/2助成になっており、取り組む面積にもよりますが、大勢で広いエリアを行なうのなら、高額の資機材については林内作業車の150万円程度の価格のものが承認範囲内になるようでして、其の半額を助成されているケースがあります。津和野町では2グループ程が、この交付金を使って林内作業車を購入しています。もちろん、PCウィンチも同様に1/2助成の対象になるはずですのでご確認ください。

 

  自伐型林業と言っても人それぞれ取り組み方が異なるでしょう。ですから様々なレベルと質の取り組み方があることを知っておいたほうが取り組みやすいかと考えます。

 主に上記の三種類の搬出方法(他にもトラクターや軽トラなどで引き出すというのもありますが)を参考に、そして2t4WDトラックまで手に入れるほどの量を日常的に搬出するかどうか、また作業道作りもリースでバックホーを借りるのか、中古を手に入れるのかで投資金額のレベルが様々です。
 まずはステップアップを指針に低コストで初めて、先行きのヴィジョンが観えてから更に投資するのが賢いかと思われます。

 

  無理をしない。身の丈に即した取り組み方を身に付けることが大事です。この自伐型であればノルマから開放されますから、自分のペースで取り組みが可能なのでリスクマネージメントがしやすいことが一番の利点です。自伐型は怪我をしてもその間の生活費は保障されませんから、まずは安全が第一です。
 自由には義務が付帯します。自営の自伐型林業は自由で自立が基本ですから自己責任においてすべてを処理します。故に家族のために、そして自分自身のためにも安全の確保を最優先する義務があります。

 その安全は、自分自身と家族を愛するだけでなく、木々や山や自然を愛することから始まると思うのですが如何でしょう。山や自然からの恵み に、そして自分の周りにあるご縁に感謝できてこそ愛情が育まれます。受け取るだけでなく、山や自然に自分自身が何を差し出せるのかということです。恵みを貰うだけでなく恩返しをするということですね。大自然は冷徹ですが、感謝や誠意の心を差し出す人を山は守ってくれます。差し出すものが還るもの。これは法則です。

 自伐型林業へ携わる方々は、ぜひ山守としての矜持を持って取り組んでいただければ幸いです。
 そして、都市部の方々で農山村へ移り住みたいと願っている人は、自伐型林業を取り組んでいる地域にお願いして、是非見学をさせてもらってください。もしかすると、自分自身の心の壁を崩し、自然とともに暮らす新たなステップがイメイジできるようになるよい機会となるでしょう。

 生業としての林業ではなく、昔の人の様に何でも出来て、他の仕事もしつつ、その時々で多様な目的をもって山の資源を活用する様な山仕事が出来たなら生き方の選択肢が広がるでしょう。 こういった人々が増えれば、山の保全のための人材の底辺が画期的に広がります。
 それも、大規模な林業とは違う切り口で、ローコストの小さな高性能で扱いやすい道具で効率よく、そして安全に搬出が出来る。目指すはスーパー素人です。

 これらの道具立てがあれば、自分たちで木を伐って山奥から搬出し、乾燥させてチェンソー製材機で板材、角材を自給するところまでできます。勿論、製材所に出せばきっちりとした用材が出来ます。

 小屋から家まで自分たちで用材の自給率を高められたなら、今の中山間地域の山に放置された空き家整備も進み、山村に暮らしたいという若者が増えること必至です。インターネット、小規模の電力自給などの基盤が整いつつありますから、様々なスキルを持った人たちだったら山村部で楽々愉しく暮らせます。
 山や自然、地球を守りたいと考えている方々と手を携え、洗練された価値観と行動指針をもったコミュニティづくりへと進む道標は、自伐型林業にあるのかもしれません。

  以上

※1:カナダ ポータブルウィンチ社日本総代理店 株式会社ピーシー販売(tel:072-653-3201)が、林業用に本体PCW-5000、 30feet1/2インチロープ(100m弱、12.5mm)、スナッチブロック、スリング、カラビナ、チョーカーロープ、スキッドコーンなどをセットで販売。現地講習サポート、保証付き。使い方は簡単ではありますが、設置を含め間違うと動力機械なので危ないですし、裏技や様々な使い方があり応用範囲が広いため講習は必須です。
  このPCウィンチは、最初から林業用という訳ではなく、山岳などにおける人命救助、大型獣の狩猟、スタック車両のレスキューなどにも使用想定されており、山岳レスキュー用には岩山などで負傷者を吊るし上げる際の樹脂製のボートなども用意されています。今の様な異常気象による災害が多発する時代には、行政や自治組織などに設備しておくといざという時に役に立つアイテムだと思われます。

  また、ここに紹介したように、小規模で自伐を行っていく上でPCウィンチは優れものですが、とにかく黄色いキャップのスキッドコーンは、人力でも馬搬でも、トラクターや軽トラで曳くなどの際にでも超便利ですから是非検討されると良いでしょう。但し、タマコ(鋼線の荷掛け用ワイヤー)を使うとスキッドコーンに損傷を与えるそうなので、同社取り扱いの化繊でできたチョーカーロープ(破断強度7t)の使用をお薦めします。

  それから、わたしが主宰する協議会では、山岳消防用にポンプを背中に背負って山を登れる超小型高性能の消防セット(“Wickman100” 90mホース付き)を設備していますが、これは40mmホースで垂直にビルの10階以上まで揚水かつ放水が出来る優れものです。これも同社の取り扱い品です。
 

 集落で年寄りたちが山火事を出した際には、このセットで自分たちで消化しています。それも2回も。(^^;;
 

 

 もちろん、この高性能ですから、災害時の排水や給水にも活躍します。また、付属のノズルでは細く遠くまで飛ばすタイプ、それから開度を変えてストレートと霧状での放出を調整できるタイプもありますので、田畑への微生物液散布とか、放射能汚染地での微生物除染などにも活躍することでしょう。
  平坦なところであればホースは300mまで延長可能とのこと。納入時にピーシー販売さんが、集落の人たちに運用指導をしてくれたときには、200mのホー スで放水しました。此のときお年寄りたちに交代で放水して貰いましたが、40mmホースであることとノズルの形状のために反動 が殆どなく、高齢の女性でさえ片手で持ってとなりのおばさんと話しをしながら放水していました。もちろん、水は凄く飛びます。
  消防署の分団の隊長たちにも体験して貰った際には、「これは、使える。」「この間の、ヘリコプター消火をした山火事のときに、此れさえあれば済んだのに・・・」と言わせた くらいです。

 また、このセットには40mmから60mmに変換するアダプタも付いていますので、消火栓から先、もしくは消防車のホースが届かないところから先に接 続して、ブースター的な使用も出来ます。
 この上位機種では、60mmホースで平坦地で3kmまで延長できるものもあります。これらは過疎地で消防車が直に来られない自治会などで設備するといざという時に役に立つものだと思います。
 同社取り扱いの各機種は、全国の消防署だけでなくNPOや自治体、自治会や様々な団体が導入しています。 そして、この消防セットがあれば野焼きのときも安心して行なえます。やはり、時々野焼きを行なわないと土が良くならないし、イノシシなどに荒らされた耕地を復活させるにも山ダニなどを駆除しないと嫌ですからね。中山間地域で、野焼きを復活させ安全に行なうためにも、こういった高性能の小型消防ポンプは必要 でしょう。詳しくは同社まで問い合わせをしてみてください。

※2:本ページの各種ノウハウは匹見・縄文の森協議会の活動によるものです。

 

 

 

 


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